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【山口由美】ジェットウィング ・ライトハウス

一目で気に入ったロケーション

ジェフリー・バワの作品は、どれもそのロケーションとの関係性に必然がある。だが、それがとりわけ強く、複合的に、しかも自然に感じられるのが、ジェットウイング・ライトハウスかもしれない。

バワの代表作ホテルというと、同じく並び称されるのが、ヘリタンス・カンダラマだ。波が砕け散る海を見下ろす立地のライトハウスと対照的に、カンダラマは、内陸の乾燥地帯に岩山を抱きかかえるようにして建つ。どちらも、それぞれのロケーションをバワが気に入り、その特徴を最大限に生かして設計したものだが、そこに至るまでの経緯も対照的だった。
 カンダラマが当初のロケーションを気に入らず、施主と共にヘリコプターに乗って空から「発見」した土地だったのに対し、ライトハウスの場合は、施主が示したロケーションを一度で気に入ったからだ。今、ライトハウスが建つ、海を見下ろす岩場に立ったとき、バワの頭の中に、またたくまにライトハウスの設計図がわき上がったという。
 ジェットウイングの創業者でもあった施主は、現会長の父親にあたるが、バワが建築家となってまもなくの頃から施主として仕事を発注したことのある親しい間柄だった。そうした信頼関係もあったのかもしれない。
 天才と呼ばれる建築家には、しばしば、そのロケーションに立っただけで、作品の完成図が一瞬のうちにわき上がる伝説があるが、ライトハウスは、まさにそうだったのだ。

 そこにいることが気持ちいい建築



 また、バワの作品は、写真で見るのと、実際にその場に立つのとでは、大きく印象が異なることも特徴である。
 そのことに気づかせてくれたのが、毎年主催しているバワツアーの第一回目で同行した建築家の言葉であり、ライトハウスの存在そのものだった。
 「ヨーロッパなどの有名建築は、たいてい写真で見た通りなんですよ」
 せっかく現場にいっても、それらは、写真で見たままの、それ以上でも、それ以下でもない姿で、そこにある。だから、旅は「発見」ではなく「確認」にしかならない。でも、バワの作品は、写真で見るのと、実際に来てみた印象が全く違うと彼は言った。
 「バワの建築は、その中に佇み、過ごしているのが心地良いんですよね」
 そんな会話をかわしたのが、ライトハウスの象徴ともいうべき、海に面したテラスに続く、レストランの屋外席だった。



 ザッブーンと波が岩に砕ける音。
 キラキラと光る朝の光。

 爽やかな潮風が、肌にまとわりつくような熱帯の湿気を心地よいものに変えてゆく。
 海に向かって座っている限り、見えているのは、ただ海であり、バワの建築は、視界に入ってこない。でも、ライトハウスのこの場所で、朝食の時間にだけ感じられる居心地の良さが確かにあり、そして、それは、バワが創り出した空間の魔法なのだった。



 ゴールの歴史がもうひとつのテーマ

 ライトハウスのハイライトは、エントランスの螺旋階段を上がって、視界に海が飛び込んでくる瞬間である。晴れた日であれば、手前の床に空の青が映って、海に向かって開かれた建築が、海の一部になる。



 その瞬間も同じである。

 写真で見ても美しいが、写真だけでは伝わらない空気感のようなものが確かにあって、実際にそこに立たなければ感じることのできない感動がある。
 そして、それは、何度ライトハウスを訪れても不思議と色あせない。たぶん、光も風もその時々で違うからだろう。
 さらにもうひとつ、ライトハウスの魅力は、ゴールという土地の歴史が建築に織り込まれていることである。スリランカ南部の港町、ゴールは、世界遺産の旧市街と城壁、すなわちゴール・フォートで知られる。



 螺旋階段を縁取るのは、ゴールを植民地にしていたポルトガル人とシンハラ人の戦いをモチーフにしたオブジェ。建物の外壁の芥子色は、ゴール・フォートの色である。



 3つあるテーマスイートは、東西貿易の要衝だったゴールを訪れたさまざまな国の人々に題材をとっている。オランダをイメージした「スピルバーゲン(ダッチスイート)」、中国風の「ファーフィエン(チャイニーズスイート)」、そして「イバン・バトゥータ(モロッカンスイート)」は、バワの父方の祖先でもあるアラブ人の往来がゴールにあった歴史を物語る。



 ライトハウスを訪れるなら、ぜひ2泊して、ゴール・フォートにも足を延ばしてほしい。歴史を知ることで、バワがホテルに込めたメッセージを知ることができるからだ。
 レストラン奥のテラスに立つと、ゴールを望む岬に建つライトハウスが、そこに向かって航海する船をイメージして建てられていることに気づく。それもまたバワの企みなのだ。

山口 由美

旅する作家/日本旅行作家協会会員/日本エコツーリズム協会会員

1962年神奈川県箱根町生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。海外旅行とホテルの業界誌紙のフリーランス記者を経て作家活動に入る。旅とホテルをテーマにノンフィクション、小説、紀行、エッセイ、評論など幅広い分野で執筆している。

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